2010年4月19日月曜日

さよならエコール

 この4月で、うちのこどもも、こっちの幼稚園としては年度の途中だけど、日本式には小学校一年生。現地の幼稚園からそのまま夏に小学校に進ませる手もあったのだけど、けっきょく、小学校からは日本人学校に入れてしまった。当初、幼稚園になじめないときに、小学校からは日本人学校に入れてあげる、と話していて、こどももずっとそれを覚えていた。仮申し込みの前に、こどもに確認したけれど、やっぱり日本人学校が良いと言う。親は、幼稚園に慣れている姿も見て来ているので、惜しい気がして来て、いろいろ、聞き方を変えて「**ちゃんと同じが良いんじゃないの?」とか、やってみたけど、「日本語の学校が良い、もうフランス語の学校は嫌」というので、まあ、これははっきりしてるのかなあ、と思うに至った。
 それに、日本の学校と、こっちの学校は学習的な面はともかく、習慣的なことも違うので、帰る前に親子ともどもリハビリをしたほうが良いとも思うし(日本人小学校に通わせ始めた現在、順応性が低いのは私の方だとわかりました)。
 4月の最初の週末から、こっちは2週間のイースター休暇に入るので、その前まで通うことにして、担任とも、事務の女性とも話す。転出手続きはとくになにもないとのことで、口頭で伝えたら終わってしまった。あっけない。

 最後の週、個人面談があった。先生にはTres bien! Perfait!と言ってもらった。数字に合わせて絵を書くとか、見本通りの配置で図形を書くとか、フランス語の文章「真ん中に木、そこにりんご、その下、右に親猫、左に子猫」とかそういうのに合わせて絵を書くという作業をした紙の綴りが作ってあって、完璧に出来てます。とこのとであった。フランス語も良くできるようになったんだから、日本人学校に行っても、フランス語の勉強は、続けさせてくださいね、そのために家でもフランス語で会話しなさいと言うので、いや〜、今、私よりこどもの方が出来るますから……と言ったが、今、あなたは私とフランス語で話していて、日本語で話しているわけじゃないんだから、それを家でやれば良いのだと言うことであった。いやいや、フランス語で話しているのはあなただけであって、私はあいづち打ってるだけですよ〜。でも、こういう会話をしていると、ますます、現地の学校に入れたい気持ちが親は盛り上がってくる。そういえば、日本で通わせていた保育園では、人間関係とか、生活態度ができているかどうかを話されたものだが、こっちはこういう勉強的なこと、語学の習得のようなものを言われるように思う。保育園と幼稚園の違いなのか、土地柄なのか……。

 こどもは3月の末が誕生日で、こっちは自分の誕生日にケーキを用意して振る舞う習慣があり、学校にも、ケーキを持ち込む。そこで、お別れ会もかねて、少しゴージャスにすることに。去年、「うちのパン屋」にケーキを頼んだところ、2週間前には申し込まないと、釜の段取りがあるからだめ、と断られたのだ。で、今年は、早々に申し込みに行った。日付と人数(20人)を話し、おばさんが「やっぱりチョコが良いかしら?」と言うのを、うちのはチョコが嫌いなので、イチゴと生クリームのケーキを指定して、今度は、焼く本人のおじさん(といっても童顔でかわいい人)が台はタルト台とビスキュイ・サボワとどちらにするか、と聞かれ、おばさんが、「学校で先生が切るわけだから、ぜったいビスキュイの方が良いと思う」と強く助言して来たので、私も同感だし、ではそれで、と頼んで、もうばっちり、とうきうき。
 と、直前になって、その日はスポーツセンターに一日遊びに行く、という行事のお知らせが入って来た(一週間切ってるのに!)。頭に血が上って、外国出張中の夫と電話協議したりして、翌日、担任に話をつけに行ったら、「Bonjour」と声をかけるなり、「29日のことね!」と言われてしまい、とても謝られたけど、やっぱり29日には出来ない30日でどうか、と言われ、「もうパン屋さんに頼んじゃったんですよ~」「おーーー」「えーっと、相談します」「パン屋さんとね! 結果を知らせてね」。今度は、パン屋に出かけて行って交渉。パン屋も、「29日がダメになって」と言ったら、一瞬顔が曇り、「火曜、つまり30日――」と言ったら、「火曜に、30人分!?」とパニックするが、人数変わらず、一日の延期で済むと知ったら「Pas problem」ということになった(問題ないということ)。
 また、誕生日には、ケーキを振る舞うのみならず、小さな袋に駄菓子(グミの小袋や、小さなチョコの箱等)を入れて人数分用意して配ったりする。これもやりたい、クッキーを焼け、とこどもが言う。もう最後だし、やりますよ〜! と大きなくまの顔の型で抜いてサブレーを作る。前日の午後作り始めて、途中で生地が足りないことに気づき、夫にSOSを出す。会社の帰りにバターを買って来てもらう。途中まで手伝っていたこどもも飽きて来たので、後半は夜に回し、こどもが寝たあと、一人で型を抜き、どんどん焼く。焼き終わったのを、シリコンペーパーでいったん包み、こういうときのために売られているディズニーキャラのビニール袋に入れて行く。
 誕生日当日、パン屋にケーキを受け取りに行くと、おばさんだけじゃなくて、おじさんも出て来て、大きな箱に入れた巨大なケーキを出してくれる。四角いケーキを生クリームでデコレーションしてあり、イチゴが飾られ、アラザンが散らしてある。真ん中にマジパンで作られたプレートがあり、こどものなまえと「Heureux Anniversaire 6ans」と書かれている。しかし、20人分――私が言ったことだけど、バカ正直に人数を申告していたので、巨大なケーキが出来上がっていた。余って持って帰って来てくれないかなあと思うが、まあ、そんなことはありませんでした。あとで聞いたら、他のクラスや、事務の女性にも振る舞われたそうです。クッキーも余計に持たせてあったので、ほかのクラスの仲良くしてもらった日本人の方達にも配ったり。

 そして、最後の日がやって来た。その日は、私は歯医者の予約があり、間に合わないかもしれないので、お迎えは夫に頼んでいたし、また、担任が午後を休みにしている(教えているのか、まだ学んでいるのか、大学に火曜と木曜の午後に戻っているのだ)日なので、朝のうちに、用意しておいたお別れのプレゼントの亀の風呂敷を渡す。前日作った「これは、ものを包んだり運んだりする日本の伝統的な布です。日本では、鶴は千年、亀は万年生きるとされ、長寿のシンボルです」というメモを付けて。こどもにも、こどもと担任、マスコットの亀の絵を描き、Merci!と書いた手紙を作らせたので、それも一緒に渡す。
 帰りは歯医者がぎりぎり間に合うタイミングで終わったので、タクシーを飛ばして駆けつけた。担任は、案の定午後休みを取っていたが、間に合ってほかの子たちと別れを惜しむことができた。

 担任からは、これまでクラスで作って来た作品が返却されていた。
 まず、大きなファイルにこれまで描いて来た絵がきちんとファイルされているもの。
 クリアファイルの左ページに歌が、その右側に、それをテーマに描かせた絵――画材も、色鉛筆、クレヨン、絵の具などいろいろ使っている――が入っているもの。この中には、クラスの子供たちの名前を織り込んだ歌が作られていて、それも入っていた。もうフランス語はどんどん落ちて行くだろうと思うので、そのファイルを見せて、こどもに歌わせて、歌も録音で採集することにした。いくつか録ったが、さあ、いつまで覚えているのだろうか。
 スケッチブックに、担任がお題を出し、こどもに絵を描かせ、その後、補足を担任が書き込んでいるものもあった。たとえば「アンドリューの妹が幼稚園に来ました」という題にこどもが描いた絵、そこにアンドリュー、そのお母さん、赤ちゃん、担任――といった補足のメモ書きがついている。
 時系列にそってファイルされていることもあって、いろいろ思い出されて親は感慨深い。

 ところで、タイトルに「エコール」と書いたけれど、こどもが幼稚園に慣れないでいるときに、「これは保育園でも幼稚園でも、小学校でもなくて『エコール』というもっとすごいものなんだよ」と教えたので、家ではずっとエコールと言って来ていたのだ。日本語でもドイツ語でも、幼稚園とそれ以上の学校とでは違う単語(Kindergarten=幼稚園とSchule=学校)を使っているが、フランス語では、幼稚園から「maternel(母親の/母性の)」は付くけれど、Ecole=学校と呼ばれているのがちょっと珍しくも感じていたので――。

 イースター休暇の最後の日曜日、家の近くの公園に遊びに行ったら、去年同じクラスだった二家族が遊びに来ていた。うちのもさっそく混ざって遊ぶ。いつもだったら、適当なところで切り上げて帰るところを、その日は、気が済むまで遊ばせてやり、他の家族が帰るのと合わせて帰ることにした。最後に、そちらの親が「じゃあ、明日また幼稚園でね」とこどもに言う。今年はクラスが違うのでこどもが幼稚園をやめたことを知らないのだ。と、私が口を開く前に、こどもがフランス語で「私は今、日本人学校に通っているの」と発言、相手をびっくりさせた。「学校を替わったってことか? なにがあったのか?」と聞く親に、「いやいや、日本では4月から学校が始まるので、もうこの4月からこの子はprimary schoolなのです」と説明する。「じゃあ、良いことなのね?」と確認された。この二家族は、片方が、東洋系の母親、もう片方はアフリカ系の養女とマイノリティなためか、私たち一家が幼稚園になじめているかどうか、いつも気にしてくれていたのだった。「そういうことなら、さようならは言わないわ、また会いましょう」と言われ、「A bien tot!」と何度も繰り返して別れた。子供たちは、眼を大きくして驚いた表情で話を聞いていたが、最後に三人でハグして別れた。
 帰り道は、なんとなく暗い顔をしているこどもに「みんなぎゅーってしてくれたね」と話しかけると、「Sは泣いてた」とつぶやく。これまで、日本人学校に行くことがとにかく楽しく嬉しくて、親が見ているとがっかりするくらいあっけなくエコール生活と別れを告げたのだった。悲しい面、というのは初めて気づいたのかもしれない。
 
 そして、日本人学校。初日からうきうき通っている。行き帰りがスクールバスになるので、ちょっと心配で、帰りは、お迎えに行くかと言ってみたけど、いや、バスに乗るんだ、と出かけて行って、初日も水泳教室で一緒の男の子を見つけて一緒に乗って来たとかで、楽しくやっている。
 大きく、違うなあと親が感じたのは、これまで、幼稚園では、読んでもらった本の話をしようとして、うまく説明できなくて、かんしゃく起こしてたりしていたのが、読んでもらった紙芝居を起承転結を付けて、ちゃんと再現できたりして、やっぱり、頭の中で、日仏が整理できてないと、自分で分かってストレスだったのかなあとちょっと思ったり。
 こうして、どんどん新しい知識を入れて行くいっぽうで、どんどん忘れて行くこともあるんだろうなあとも親は思う。

 でも、たった1年半だけど、フランス語の幼稚園に通わせたことは、後悔していないよ。

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