2010年3月19日金曜日

パリ行きのこと


 パリに一人で行って来た。一人旅~といっても、日帰りだけど。放射線状で歩きにくいとか、興味ないとか言ってるけど、結婚前に留学中の友人を訪ねたり、ドイツに住んでいるときにも、一人で出かけたり、実は、ヨーロッパでホームタウン以外では、一人歩き時間が一番長い街はパリかもしれない。でも、ルーブルには行ったことがないというひねくれ者。

 それでいて、パリには慣れたという気持ちになることがない。いつも、観光客の気分。着いたときから、どきどきしながら歩くことになる。「おのぼり」という気分になる。


 夫と一緒だと、予習はすべて彼に任せて、ぼけーっとついて行くだけなのだが、一人なので、前もってガイドブックを読んだり、地図をコピーしてマーキングしたりの用意もする。夫は予習型人間なので、行く前に地図を読み込んで、目的地に行く道順をすべて頭に入れて地図は持たずに出かけるような人だが、私はそれはできないので、地図に行きたいところを多めにマーキングして、この辺に行かれたらラッキーくらいの気持ちで旅立つタイプ。

 今回は、まず、切れている味噌を買い、たまっている日本の本をブックオフに売るという目的があるので、日本人街のある1区にはまず行く。ほかは、家族がいると行きにくいところに行こう。手芸店か。ネットで検索してみると、1区のかなり日本人街のそばに1軒、そこから土地勘のあるレ・アルのほうに行く途中に一軒あることが分かる。そしてやっぱりパリと言えば私にとっては辻邦生氏なので、雑誌『考える人』の「堀江敏幸と歩くパリ」に出ていたゆかりの書店にも行ってみようと考える。レ・アルあたりでメトロに乗れば、旅行中の移動はすべて4番のメトロで行けるから迷わないだろう。

 調べて行くと、プランタンでティム・バートンの映画「不思議の国のアリス」関連のイベントをやってるとか、そこでラデュレが限定菓子を売っているとか、他にも魅力的なものが出てきて迷うけど、胸によく手を当てて考えてみろ、本当にお前が好きなのはそれか? 今回はやはり手芸店と辻邦生氏だ! と割り切ることにする。

 さらに、雑誌『旅』で食事関係を調べる。辻邦生氏ゆかり書店のそばにその名も「編集者」というカフェがあるので、ここで昼を食べよう! と思うが、調べると値段が高め――うーん、時間も限られているし、お茶でも良いんだよなあと思いつつ、一応地図にマーキング。あとは、翌朝のパンを買ったりしたいし、家族にお菓子も買いたい、そういえば、バターやマスタードも切らしているからいっそパリで普段は買えないようなよさげなものを買ってくるか? とそのあたりのお店もマーキング。


 いつものリモワのトロリーに詰め込めるだけ本を詰め込んで出発。前のパリ行きの急行が1時間近く遅れて、私の乗る予定のと発車時刻が同じになっている。ははは、またかよ~と思うが、意外にがんばって、3分遅れで発車。読みかけの『狼と香辛料14』を読み終え、『辻邦生全短篇1』も読んでパリ気分を盛り上げる。パリには15分遅れで到着。焦りながら、まずは重い荷物を手放しにブックオフへ。清算してもらっている間にパリのガイドブックを立ち読み。またまた魅力的なランチが食べられそうな店を発見。6区だから、書店と掛け持ちが出来るかもと思うが、持っている地図のコピーでその通りが発見できない。そうこうしているうちに清算が終わり、お金を受け取って外へ。

 いつも味噌を買っている店は、パリの日本食材店の中でも、高いこだわりのものを売っているところで、日本で使っていた調味料がいろいろある(味噌は違うけど)。日本で使っていたみりんも発見するがあまりに高くて腰が砕けそうになるので、いやいやこっちにいる間は、みりんはポルトワインで代用だ! と買うのをやめる。その他にもときどき買いたい気持ちが盛り上がってはやめているゆず胡椒もチェックするが、やはり簡単に買える値段ではない……。結局、気持ちが盛り上がったり盛り下がったりをくりかえして、味噌と酢だけにして外に出る。パリは快晴で暑いくらいなのに、夫からはブリュッセルは寒いと言うメイルが入る。

 手芸店に寄って、やっぱりいろいろ買いたくなるものの、そうは買えないので、これからやろうとしている刺繍に必要な糸を買う。かわいいボタンやチロリアンテープを見て一人興奮。

 歩いているうちに、パサージュを見つけたので入る。いかにもパリ! と私が思っているような空間。天気がよいので、天窓が明るくなっている。所々開けてある。古本屋や、おもちゃ屋をざっと流す。

 レ・アルまで出て、もう一軒の手芸店。ここでもビーズやボタンがたくさんあって見ているだけで堪能。意味もなく綿素材の毛糸を買う。調べておいたパン屋さんまで歩くが、閉まっていてがっかり。買うものもないけれどちょっと見てみようか? と調理用具店に寄ろうとすると「これから昼休みです」と言われる。ああもうそんな時間だ。

 メトロに乗って6区へ移動。めざす「編集者」カフェはすぐ見つかるが、外席も含め満席。ゴージャス空間で気圧されるし、ブランチメニューも中華風の炒め物WOKなので、あまり惹かれない。斜め向かいに繁盛店があり、そっちも一杯ではあるが、ぎちぎちに席を詰め込んでいて回転が速いのでそちらに移動。本日のお勧めからラムを選んで、『辻邦生全短篇1』を読みつつ赤ワイン。周りの人が頼んでいるパン粉乗せ焼きが気になる。これだけたくさん出ているってことはお勧めだろうけど、と店内の鏡に白い不透明ペンキで書かれたメニューを解読するが分からない。しばし凝視して、焼き物の断面が赤黒いことが判明。血を固めて焼いたものだ! メニュー選択が誤ってなかったことを認識して(血を焼いたのは苦手なので)また本に没頭。「西欧の光の下」気分に包まれる。デザートも頼みたくなるけれど、お腹具合というより、時間がもったいないので、コーヒーだけ頼んでさっと飲んで支払って出る。ああ、みんなが食べていたプリンがおいしそうだったな~。

 ゆかり書店まではすぐ。上品な老婦人が迎えてくれる。「マドモアゼル」と話しかけられて、おお、私も子連れじゃなきゃまだまだ「マドモアゼル」か、と錯覚しかけるが、いやいや、他の店ではずっと「マダム」でした。トロリーをレジ裏に預かってくれるという。いかにもな文芸書店。壁は全面天井まである高い書棚、平台の島。小川洋子氏がフランスでは人気があるらしく、ブリュッセルでもよく見かけるが、『海』の翻訳が平台の目立つところに置いてあった。地下の児童書売り場をわざわざ開けてもらってみせてもらう。これまた、フランスで人気の酒井駒子氏の絵本がたくさんある。古いと思うが安野光雅氏の『天動説の絵本』も目立つところに面陳してある。せっかく開けてもらったけど、なにも買わずに出る。最後に老婦人にまた挨拶をしてトロリーを受け取る。


 さて、目的地は網羅し終えた。いっそ、欲張って辻邦生氏旧居でも見に行こうか、そこからムフタール通りを流して食べ物を買うというのは? と思いつくが、メトロの4番線を離れてしまうので、帰りが不安。これまでパリで一人の時間があると、ストーカーのように必ず行っていた「聖地」なのだが、今回はあまり引力を感じていないことが分かる。亡くなられて、磁力を失っているのだろうか――と思うと、ほんとうに、聖地巡礼するファンというよりストーカーっぽいけど。

 せっかく観光地ど真ん中サンジェルマン・デ・プレにいるので、買物でもしつつぷらぷらすることにする。屋内市場を流して、無目的にぷらぷらと歩く。無印良品があるので、夫が部屋着として愛用しているジャージ(スウェットの上下というべきか)がぼろぼろになっているのを思い出し、お土産にちょうど良い、と寄ってみるけれど、さすがにジャージはなかった……。こっちの人は部屋着にそんなものは着ないのかな。けっこう探すけど見たことがない。パジャマっぽい薄いのはあるが、もっさりした厚手の裏パイルのが欲しいのだ。スポーツ用のは、もろスポーツ用になっちゃってくつろがないしね。

 ボンマルシェに行こうとして、また放射状の道にだまされて(いや私が悪いのですが)、リュクサンブール公園に出てしまう。地図で確認していて、上品な老婦人に「どこを探しているの?」と話しかけられ、地図を見せつつ「ここに行きたいんですが」と言うと「まあ! ここは遠いわよ、バスに乗らなきゃ、**番のバスが行くわよ」と親切に教えてくれる。礼を言って別れるが、いや~、バスに乗る気はないしなあ。あまり欲張らないことにして、ポワラーヌでパンを買い、ジェラール・ミュロでお土産にマカロンとシューケットを買う。なんか、「いかにも!」パリ土産で恥ずかしいですが。そして、16時にまた戻ってこられたので、編集者カフェに寄る。まだ中の席はいっぱい。暑いし外席でミント水を頼む。甘いミントシロップの水割り。これ、いつもガス無しだけど、ペリエとかガス入りの水で割った方が美味しいと思うんだけどな~。それは日本人のソーダ水のイメージでしょうか。


 一人でカフェの外席で通る車や人を眺めながら何を考えるでもなくぼーっとしていると、こういう一人の人生もあったかもなあという気持ちになってくる。

 若い頃は、非常に傲慢だったので、つねに人生の選択が最善で、これ以上の人生はないと思っていた。そのうちに、違う人生もあったかもと思うことがでてきて、しばらくは、それが敗北感のようでとても嫌だった。今は、それも肯定的に受け入れられるようになってきた。昔の私が知ったら、老化だと思うかもしれないけれど。いやいや、人生折り返し地点を過ぎたということです。


 早めに急行のターミナル駅に出る。ショッピングセンターになっているので、こどもに服を買ってお土産にする。入線自体は早かったのになかなか発車しない電車にイライラしつつ、自宅にメイルする。返事が返って来るので、だらだらとまた返す。ポワラーヌで買いすぎた、と思っていたパンを開けて、クロワッサンを食べる。けっきょく、30分以上遅れてブリュッセルに着いた。夜ご飯を食べずに待っていてくれたので、さっそく三人で食べる。私が留守中は、こどもが考案した馬鹿踊りを二人で踊ったり、リコーダーを吹いたり、こどもはシロフォン叩いたり、クレープ焼いたり、いろいろ楽しく過ごしていたらしく、それはそれでうらやましい気持ちにもなる。行きに読んでいた『狼と香辛料14』にあるように「一人がいいと思えるのは、本当に一人ではないときだけのこと」ということなのだろう(ちょっときれいにまとめてみました)。

2 件のコメント:

Asako さんのコメント...

いいなあパリ。先週夫が出張で行ってきて、自由時間があったので散歩したと言っていて、羨ましくて仕方なかったです。時間があったという割にお土産がなく、怒!!!

今週は長男が春休みなので実家に行ってきました。また雑貨屋が増えていて(といっても、多分1年くらい前から)、北欧小物が多く、興味津々でした。コロッケ屋(というかお肉屋さん)のあとはまだ何もなかったです。

Amsel さんのコメント...

ははは……よっぽど教育しないと「おみやげ」ってもともと発想ない人って、買ってくれないですよね。
この旅行は、「パリ」ももちろん、「一人」というところが今や贅沢だったなあ……。本文には書かなかったけど、帰り、ブリュッセルに入って、夜の地下鉄に乗ったのが本当に久しぶりで、気持ちがわくわくするのを感じました。なんか、懐かしくて。土曜の19時台、これから遊びに行く人や、もう遊び疲れた人やらいろいろ乗っていて。おしゃれしてオレンジの薔薇の大きな花束を持った、割に年配の女性なんかもいたりして、ちょっと想像をかき立てられました。