2009年10月14日水曜日

アウェイで暮らすこと

 木曜日、健康診断に行ってきた。いつも、言葉が出来なくても、なんとかなるさでやってきてしまうはた迷惑な私だが、医者だけは日本語の通じる医者に行っている。その医者のやっている健康診断。医院での健診はすべて終わって、あとは、マンモグラフィのみ。紹介状を持って放射線科の専門医に。申し込み時にメイルで送られてきた「このフランス語の手紙を渡しさえすれば大丈夫」の手紙を持って。しかし、予約は入っていないと言われてしまう。私の名前でも医者の名前でも調べてもらったが、なし。予約用の大きなノートを開いて、1ヶ月近く先に、その医者で同じ時間帯の予約があるが……? と言われてしまう。うーん、しょうがないので、医者に電話する。「うそー!」と開口一番言われてしまうが、それは私も同じ気持ち。「でも、予約ノートも見たんです!」としつこく言う。とにかく、直接話してくれるというので、任せて一度電話を切る。折り返しかかってきて、翌朝の予約が取れたという。
 まー、この国で予約どおりにいかないとか、時間が守られないとかいちいち驚いたり腹立てたりしてたらやってけませんからね! と気を取り直して、放射線科の住所を見たときから決めていたレバノン料理の店でランチを食べて帰る。

 翌日、また紹介状を持って放射線科へ。もう顔を覚えられているので、にこやかに受付の女性も迎えてくれて、スムーズに進む。医者は英語だが、まあ、基本単語ばかりなので、大丈夫だろう。
 が、医者が「これを右手に持って」と渡したのは、バリウムでは? 「私、マンモグラフィを受けにきたんですけど」。医者が怪訝な顔をしながら紹介状を持ってくる。「ほら、ここに書いてある、これは胃/食道の検査なんだよね」と言われる。フランス語なので、わかっていなかったのだ。不覚を恥じつつも、「いやでも、先生にお願いしたのは、マンモグラフィなんですよ!」と言うと「うーん、じゃあ電話して聞いてみよう」。戻ってきて「いやいや、やっぱりマンモグラフィだって言ってたよ。渡す紙だけ間違えたんだよね〜」と笑って言う。そういうときに、笑って良いのか、怒った方が良いのか、会話コードが今ひとつよくわからない。つい「いえ、私もちゃんと紙を読んでなくてすみません」などと言ってしまう、が、相手の反応から、それはどうも相手の予期した返事ではなかったのだなあと察する。失敗したかなあ……と考えると、嫌な気持ちスイッチが入ってしまいそうなので、いやいや、ミスしたのは医者だ医者だ、そもそもここまでだって、問診票を送ってこなかったり、他にもミスはあったんだ、と思い直す。

 健診は簡単に終わったけど、なんとなく気持ちが疲れていて、そばにあったリフレクソロジーのサロンに入る。こんなのが突然あるなんて、東京みたい! 気分転換気分転換! と気持ちを盛り上げつつ。お金使わないと気分転換出来ないの? と心の中でささやく声がするが、そんな声にとらわれていると、また嫌な気持ちスイッチが入るので、考えないことにする。スタッフ全員が中国人のサロン。ついてくれた女性は、上海から来ているという。英語は得意じゃないというが、私もフランス語は出来ないので……と言って、英語で会話することにする。「この街は好きか?」と聞かれ、当たり障りのない会話コードで、つい「Yes」と答えてしまうが、「Why?」と聞かれ、とっさに理由が浮かばないことに愕然とする。いや、昨日今日とここまで来て、この街の良い理由なんて思いつかないよ! じゃあなぜ、最初に「Yes」とか言ってるのか? ぐるぐるしつつも、さらに当たり障りのない道で「街はきれいだし……食べ物はおいしいし……あ、でも、食べ物はきっと上海の方がおいしいよね?」「そう! フレンチだって、もちろん日本食だって美味しいレストランは上海の方が多いよ」。ここはうまく切り抜けた、と思うが、「働いているの?」「いや、夫が働いていて……」「あ、じゃあ、なんか学校に通ってる?」「いや……」「どうして? ブリュッセルはいい学校たくさんあるよ! 私、フランス語習っている。もっとフランス語がうまくなれば、もっと良い職が見つかると思うしね! なにか勉強しないの?」なーんて、重ねて聞かれてもなあ……。いえ、自堕落な主婦なんで、語学とか必要ないんです。向上心もないんです。と頭の中でつぶやく。嫌な気持ちスパイラルに入り込みそうになるのをマッサージに気持ちを向けてなんとか踏みとどまる。マッサージ自体はとても気持ちよかったです。
 受付で支払おうとすると会計の男性に「回数券があってとても得なんだ」と流暢に説明される。一回分ただとか、一番安いコースの値段で高いコースが受けられるとかとかとか……。いえ、それは必要ありません、なぜならば、ここは家のそばではなく、今日は偶然そばにきたので立ち寄っただけなので、何度も来られるとは思えないからです。と言うが、「でも、ブリュッセルにもう一軒、アントワープにも支店があるんだよ。もう一軒のサロンはとても素敵なサロン。それに、アントワープに旅行に行ったときに、ちょっと寄ってみようかな、なんて思うのも良いと思うよ!」いや、でもいりません。「期限もないんだから、ぜったい悪い話じゃないよ」。いえいりません。「ぜーーったい、損はしないから。330ユーロ、現金にする? カード?」。「今日は、今日の分だけ払います、それ以上は払いません」と言い放つ。「ぜったい得なのに」とぶつぶつつぶやかれつつも、やっと解放してもらえる。

 土曜日、未明から子供が喉とお腹の痛みを訴える。この日から旅行に出る予定があったのだがキャンセル。がっかりするけど、子供はつらそうだし、夫は金銭的損失大だし、私一人無傷といえよう。いつもの日本語の医者は、土日は休診、もう一人の日本語医も、予約の電話がつながらない。日本人診察経験のある医者リストから、近いところを探し、英語が通じるというところに予約を入れる。やはり日本人の多い地域の開業医だけあって、日本人患者が多く、私たちの前後も日本人だった。簡単な日本語を話してくれるし、薬の飲み方も日本語で書いてくれる。医者としては信頼できるし、これからこっちにしようか? と思うが、とても不便な場所なので、自動車がないと行かれない(ちなみにいつもの医者は地下鉄駅のすぐそば)。私が、あるいは私一人で子供を連れて……というのは難しい。「うちのパン屋」の近く(より遠い側だが)なんだから、気合いを入れれば、自転車で行ける! と言ってみるが、体調の悪い時、もしくは、体調の悪い子供を後ろに乗せてか? と反論される。

 こういうときに、私が今いるところは、ホームじゃなくてアウェイなんだなあとつくづく感じる。ホームだったら、頭を使わずできる会話もコードが違う。言葉が出来ない、車の運転が出来ない――ことで狭くなる可能性がホームより大きい。当たり前と言えば当たり前だが、ときどき、そういうことが重く感じられるときがある。

 その後、日曜夜から私が、月曜夜から夫が子供の風邪がうつってしまい、時差があって良かったとはいえ、とてもつらい思いをした。土曜一日でけろっと元気になった子供に処方された薬を勝手に飲み、火曜日の夕方、薬局に出て、やっと大人用の薬を買ってきた。私は胃に、夫と子供は腸に来て、それぞれつらいときはほんとうに劇症だったけど、意外にあっさりと抜けた。元気になってみると、現金なもので、気持ちも上向きになってくる。
 アウェイ暮らしだからこその気楽さをいつも享受している身がなにをいうか、大人は薬を常備しておけば、ある程度は乗り切れるし、ほんとうに困ったら、タクシーでも他人でも、どんどん使えば良いんだ! 困れば、いくらでも単語の羅列でも、身振りででも通じさせられるとかいつもは豪語しているじゃないか――という気持ちにすらなってきて、弱ってるときの私くらいの方が真人間ぽいかな。

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