2009年1月13日火曜日

パン屋さんのこと

 パン屋さんは、「うちのパン屋」と名付けるような、常連になるパン屋さんをいつも持っている。「これはほんとうに美味しい!!!」というような「すごい」ものはないけれど、しみじみと美味しいものがあるところにすることが多い。

 東京でも、家から坂を上って上り詰めたところにあるパン屋さんに通っていた。フランスパンとかクロワッサンとかはたいしたことがないけれど、角食にはじまる食パンのシリーズが美味しくて、全粒粉のやイギリスパンなどいろいろあった。「これとこれは生地が同じなんですよね」なんて言ったりすると、「型が違うので膨らみ方が違って、味も違うんです」とおばさんがちょっと怒ったように言ったりするのがおかしかった。
 おばさんは、ほんとうにお店のパンが好きらしくて、「パンは全部主人が、調理パンは全部私が作ってます」と誇らしげに言っていた。「これはレーズンが入ってるからな……」とためらうと「入ってるったって、ちょっとですよ!」と後押しする。袋に1910年創業と書いてあるので尋ねると「主人が3代目です」とうれしそうに言う。
 創業当時から変わっていないのは、ちょっと甘めの生地に薄いリンゴのスライスを乗せて焼いたやつと、黒糖蒸しパンとのことだった。この黒糖蒸しパンも私は大好きだった。レーズンが底に固まって入っているのでそこだけ残して夫に怒られたりした。あと、普段はチョコチップが乗っていて、週末だけカスタードクリーム入りになるメロンパン。おばさんに「カスタードクリーム入りのが好きなんですけど」と無茶を言うと、「そうですよね! 私もそう思うんですけど、生徒さんにはチョコチップの方が人気で、だから休みの土曜日だけ焼くんですよ!」と鼻息荒く語ってくれたり。それにうぐいすパン……。書いていると味もよみがえってきて懐かしい。
 19時が閉店で、保育園のお迎えを済ませて、駆け込むとやっとだった。時間より早く閉めてしまったりすることもあって、がっかりすることも多かった。隣が本屋さんで、子供はそこに寄るのが大好きで、がっかりしながら立ち読みとかしていると、閉店作業を終えたおばさんがのぞきにきて「あ、やっぱりいたいた、今日は来るかな、と思ってたけど閉めちゃった。パン買う?」なんて声をかけてくれる。「じゃ、全粒粉1斤ください!」と頼むと持ってきてくれて「レジも閉めたからお金は次にして」なんて言ってくれた。文字にしてみるとしみじみ迷惑な客だ。

 ブリュッセルでも、「うちのパン屋」があった。やっぱり、バゲットやクロワッサンとかはほかの店に負けるけど、どのパンも粉の味がしっかりして、素朴に美味しいパン屋さん。値段も安め。コッペパンみたいのや、四角いパンや、ブリオッシュとか、たくさんつながった形で焼いて並べてあって、頼むと手で割って売ってくれた。お店の人も親切で、うまく注文できないときにも根気よく聞いてくれたり、パンの名前を教えてくれたりした。ちょっとしたケーキも作っていて、今年のクリスマスケーキはここで買ったのだった。

 年明けに行ってみたら、「14日で閉めます」と衝撃的な貼紙が貼ってあった。この店は、二店舗あって、少し離れたところに支店がある。そこ一軒にするらしい。
 閉店前日に、ラストチャンスだろうと、わざわざ出かけていって、いつものおばさんだったので、「あしたでしめるのですね」と言ってみたら、「そう、なぜならば、だらだらだらだら」とすごーーーーく長くフランス語で説明してくれたが、申し訳ないことに最初の「なぜならば」しかわからなかった。私は向学心がまったくないので、フランス語なんて、買い物できて、子供の幼稚園で不自由しないくらいに「会話」をいくつか頭に入れておけば良いや、なんて思っているような人間なのだが、このときは、フランス語ができないことを、このおばさんに対して本当に申し訳なく思った。

 最後に、そこで名前を覚えた、「とてぃよん」という名前のデニッシュ生地をねじって砂糖がけしたパンを買った。このパンは、好きで何度か買って、途中で、名前を聞いて、でも、一回で覚えられなくて、何度か習って、やっと覚えられたのだった。途中で、おじさんが「papillonみたいな感じかな?」と言って、はばたく真似とかしてくれたので、それで頭に入ったのだった。
 おばさんも、それを覚えていたのか、私が「とてぃよん」と言ったら、吹き出して、「Parfait!(よくできました)」とほめてくれた。
 ネットで調べたら、Tortillonといって、こういう甘い生地だけでなく、バゲット生地などでもねじった形のものを呼ぶらしい。さらに辞書で調べたらねじるという意味の「tortiller」がもとだと分かった。

 支店は自転車では少し遠い。閉店を知ってから下見に行って、ここまで通うことはないな、と思った(「うちのパン屋」には気軽さも必要なので)。もっとうちのそばに何軒かあるパン屋さんを開拓しようと思った。でも、やはりまた遠くても行ってしまう「特別なパン屋」にはなるのだろうな、と思ったりもしている。

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